親記事 引用 |
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あれから約1年が経とうとしている。 やっと現実世界に慣れてはきたものの、未だに後遺症に悩まされている事も事実だ。
大量に押しつけられた書類を処理し、会社を出た頃には既に21時を過ぎようとしていた。
『もうこんな時間か。アストルティアは何時だ…おっと、いかんいかん。俺はやめたんだ』
スーツの胸ポケットからスマホを取り出す。 液晶に映る極限攻略掲示板のアイコンをタップしたい衝動を抑え馴染みの居酒屋に電話をした。
今から食事に行くという旨だけ伝えて電話を切り、ふと上を見上げると夜の街のネオンが疲れた目に心地よく刺激を与えてくれた。 震災の前はもっと派手な街だった。震災後の節電で昔のような派手さはなくなったが3年で随分と輝きを取り戻した様に思う。
『崖っぷちも早く復興できるといいな…おっと、いかんいかん。』
西通りを抜けるまでに、日本人、韓国人、中国人、フィリピン人に声を掛けられた。この街はあらゆる国の人間が集い、ネオンの輝きとは正反対の闇が蠢いている。 この街の闇に眠りし王は政治家なのだが。
各国の客引きをオーガ、プクリポ、エルフ、ウェディ、ドワーフと勝手に分類してニヤつきながら路地を曲がるとまるで韓国に来たかと錯覚するほど韓国料理屋と焼肉屋が連なっている。 この狭い街でも場所によって種族が異なり、ここはエルトナ大陸な訳だ。
更に細い路地を曲がった所に目的の店があった。
客はまばら、オーガとドワーフが談笑しながら酒を飲んでいる。
「いらっしゃい」
いつもの不貞腐れ顔でおしぼりを出すドワーフ店長。その横では嫁のプクリポがお通しの準備をしている。
とりあえずビールを頼み口を湿らせた頃、ドワーフ店長が聞く
「なにしましょ」
俺はメニューから顔を上げて言う
『バトルステーキといやしのムニエル!』
つづく |